猛暑時期の工事スケジューリング
七月から九月の猛暑期は、中止判断が曖昧なまま工程が静かに遅れがち。WBGTを物差しにした中止基準、早朝シフトの設計、工種別の工期の見積もり、暑中コンクリートの制約を整理します。
猛暑は「中止」が見えないぶん、工程が静かに崩れる
雨天中止は誰が見ても中止で、現場も施主も納得し、その日は工程表の上でも空白として記録に残る。ところが暑さによる遅れはそうならない。作業自体は続いているのに、実際には休憩が増え、動きが鈍り、午後は精度が落ちて手直しが出る。一日の終わりに「今日は進まなかった」という感覚だけが残り、工程表には何も書かれない。これが積み重なって、八月の下旬になって初めて二週間分の遅れが表面化する、というのが猛暑期の典型的な崩れ方である。対策の出発点は気合いや根性ではなく、暑さを雨と同じように「数値で判定し、記録に残す事象」として扱うことにある。中止・短縮の基準をあらかじめ決め、発動したらその日の実績に必ず書き残す。ここを決めないまま七月に突入すると、暑さ対策そのものが現場の個人判断に丸投げされてしまう。
WBGT(暑さ指数)を工程判断の物差しにする
現場で使うべき指標は気温そのものではなく暑さ指数(WBGT)である。湿度と輻射熱を含むため、気温が三十度でも湿度が高ければ危険域に入るし、鉄骨やコンクリートの照り返しがある場所では周囲より数度高く出る。目安は二十八以上が厳重警戒、三十一以上が危険とされ、環境省と気象庁の熱中症警戒アラートも暑さ指数を基準に発表される。二〇二五年六月施行の労働安全衛生規則改正では、一定の暑熱環境で継続的に行う作業について、異常を早期に把握するための報告体制の整備と、対応手順の作成・周知が事業者に義務づけられた。実務としては、WBGT計を事務所ではなく実際の作業位置、それも日向・風下・地表面に近いところに置き、朝礼と午後一番の二回読み上げる。数字を全員が同時に見る状態をつくって初めて、中止判断が我慢比べから外れる。
一日の時間割を組み替える — 早朝シフトの現実的な設計
早朝・夕方へのシフトは有効だが、単純に「七時開始」とすると近隣と法令の壁に当たる。騒音規制法の特定建設作業には作業できる時間帯や一日の作業時間の上限が定められており、自治体の条例でさらに厳しい地域もある。現実的なのは二段構えで、七時台は資材の荷下ろしや墨出しといった低騒音の段取り作業に充て、はつり・削岩・発電機を伴う作業は八時以降に置く。そのうえで、最も暑くなる十三時から十五時を重作業から外す。屋根・外壁・高所の作業をこの帯から抜き、屋内や日陰でできる作業、材料の加工、書類や写真の整理に振り替える。休憩は「疲れたら取る」ではなく時刻で固定し、二時間ごとに二十分、日陰か空調のある休憩場所で取らせる。職人が複数現場を掛け持ちしている場合、開始時刻の変更は他の現場にも波及するので、遅くとも二週間前には合意しておきたい。
工期は何を何倍するのか — 実働時間から逆算する
「夏だから一・二倍」と全体に一律で掛けるのは乱暴で、たいてい外れる。掛けるべきなのは工種ごとの実働時間である。たとえば通常八時間の一日から十三時から十五時の二時間を重作業の対象外にし、休憩を三十分増やせば、実質の作業時間はおよそ五時間半から六時間になる。暑さで作業速度も落ちることを織り込めば、その工種の所要日数は一・三倍前後で見るのが妥当になる。一方、空調の効いた内装仕上げ、屋内配線、事務所内での検査といった工種はほとんど落ちない。ここを一律に膨らませると見積が通らず、逆に一律に据え置くと外部工事だけが破綻する。手順としては、工程表の全工種を「炎天下の屋外・高所」「日陰または屋内で無空調」「空調下」の三つに仕分け、一つ目のグループだけを一・三倍前後、二つ目を一・一倍前後、三つ目は据え置きで引き直す。
材料の側にも締切がある — 暑中コンクリート・塗装・シーリング
高温で変わるのは人だけではない。コンクリートは日平均気温が二十五度を超える期間は暑中コンクリートとして扱い、練混ぜから打込み終了までを原則九十分以内、打込み時の温度を三十五度以下に抑えるのが一般的な基準とされる。この九十分は、生コン車の到着間隔と打設班の人数を決める制約であり、工程表の上では「打設を一日単位ではなく午前・午後の枠で置く」ことを意味する。急激な水分の蒸発で表面にひび割れが出やすくなるため、打設後の散水や被覆による養生も、独立した作業として工程に立てておきたい。塗装は逆に乾燥が速すぎることが不具合の原因になり、被塗面が高温だとローラー目や泡、レベリング不良が出る。シーリングも可使時間とヘラ押さえまでの余裕が短くなるので、一度に打つ延長を短く区切る段取りに変える。
梅雨明け直後と盆明けが最も危ない — 暑熱順化を工程に織り込む
同じ気温でも、危険度は日によって違う。体が暑さに慣れる暑熱順化には数日から二週間ほどかかり、しかも数日現場を離れると失われていく。だから本当に危ないのは真夏のピークそのものよりも、梅雨明けで急に気温が上がった直後、盆休み明けの初日、そして応援や新規入場者が入った日である。工程計画の側でできることは単純で、この三つのタイミングに重量物の揚重や屋根上作業といった高負荷の工種を置かないことに尽きる。梅雨明け直後の一週間は、外部足場の点検、材料搬入、内部の墨出しなど負荷の軽い作業を意図的に並べ、体を慣らす助走期間として使う。盆休みは八月中旬に五日から九日ほど取る現場が多く、その前後は職人の手配自体も難しい。休み明けの初日を打設や上棟に当てる工程は、安全面でも段取り面でも避けたほうがよい。
「暑くて止めた日」を工期に反映できるようにしておく
現場が正しく中止判断をしても、それが工期に反映されなければ、翌週に無理な突貫が発生して結局危険が戻ってくる。公共・民間いずれの標準的な請負契約約款にも、受注者の責めに帰すことのできない事由による工期の延長を協議・請求できる規定が置かれている。これを実際に使える状態にするには、着工前に「暑さ指数が基準を超えた場合、または熱中症警戒アラートの発表日は屋外の重作業を中止する」といった判断基準を発注者や元請と文書で共有し、中止した日を日報と工程表の両方に記録しておく必要がある。事後に「暑かったので遅れました」と口頭で言っても通らないが、基準と記録がそろっていれば協議の土俵には乗る。あわせて吸収先も先に決める。全工程に余裕を薄く散らすより、九月上旬にまとまった予備日を置くほうが機能する。
工程表に暑さを書き込む — コウテイでの運用例
こうした取り決めは、頭の中や朝礼の口頭に置いておくと運用されない。工程表そのものに載せる必要がある。コウテイでは各工程のメモ欄に「暑さ指数が基準超で中止、九月三日の予備日へ振替」のように、発動条件と振替先を書き込んでおける。屋外の高負荷工種はカテゴリの色を揃えて一目で見分けられるようにし、打設や上棟はマイルストーンとして立てる。先行工程を指定すると依存関係の矢印が引かれ、後続が先行より早く始まる矛盾は赤で警告されるため、打設を午後にずらしたときに後工程が破綻しないかをその場で確認できる。中止や短縮が出た日は進捗率を実績どおりに下げ、共有リンクを協力会社と施主に送る。リンクにはパスワードと有効期限を設定でき、現場に貼る紙はA3横で出せば長期工程も自動で複数ページに分割される。
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❓ よくある質問
Q. 夏の工事は、工期を何倍で見積もればよいですか。
全体に一律で掛けるのではなく、工種を三つに仕分けてから掛けるのが実務的です。炎天下の屋外・高所作業は、十三時から十五時を重作業から外し休憩を増やすと実働が五時間半から六時間程度になるため、一・三倍前後。日陰や屋内でも空調のない場所は一・一倍前後。空調の効いた内装仕上げや屋内配線、書類検査は据え置き。この仕分けをせずに全体を膨らませると見積が通らず、据え置くと外部工事だけが破綻します。
Q. 暑さ指数がいくつになったら作業を中止すべきですか。
一般的な目安は二十八以上が厳重警戒、三十一以上が危険とされ、熱中症警戒アラートも暑さ指数を基準に発表されます。ただし重要なのは、自社の中止・短縮基準を夏が来る前に決めて文書化しておくことです。計測は事務所ではなく実際の作業位置、日向・風下・地表面に近いところで行い、朝礼と午後一番の二回、全員の前で読み上げます。数値と発動条件が共有されていないと、判断が個人の我慢比べになってしまいます。
Q. 暑さで中止した日を理由に、工期の延長を求められますか。
公共・民間いずれの標準的な請負契約約款にも、受注者の責めに帰すことのできない事由による工期延長を協議・請求できる規定があります。ただし事後に口頭で伝えても通りません。着工前に中止の判断基準を発注者や元請と文書で共有しておくこと、そして中止した日を日報と工程表の両方に残しておくことが前提になります。基準と記録がそろっていれば協議の土俵に乗り、翌週の突貫という危険な帳尻合わせを避けられます。