働き方改革時代の工程管理
建設業の時間外労働の上限規制が適用されて丸2年。年720時間という数字を稼働日と工期に翻訳し、無理のない工程を組むための逆算手順と、遅れを早く見つける週次運用を解説します。
適用から丸2年、猶予期間の感覚はもう通用しない
建設業の時間外労働の上限規制は2024年4月に適用が始まり、2026年4月で丸2年が過ぎました。5年の猶予があったぶん当初は「うちはまだ様子見で」という空気も残っていましたが、猶予そのものが過去の話になった今、36協定の内容と実際の労働時間が食い違っていれば労働基準法違反として是正勧告の対象になり得ます。罰則も定められており、勧告に応じないまま放置すれば書類送検に至る例もあります。加えて公共工事の入札参加資格審査や、元請による協力会社の登録審査で労務管理の状況を問われる場面も増えました。工程管理はもう「現場をうまく回す技術」ではなく、法令遵守と受注資格に直結する経営の実務になったと捉えたほうが実態に合います。
年720時間を工程表の言葉に翻訳する
規制の数字はそのままでは現場で使えないので、工程の単位に置き換えます。原則は月45時間・年360時間、特別条項を結んでも年720時間以内、さらに休日労働を含めて単月100時間未満・複数月平均80時間以内、月45時間を超えられるのは年6回までという条件が同時にかかります。年720時間は12で割れば月60時間、月の稼働日を20日とすれば1日3時間の残業に相当します。月45時間なら1日2時間15分です。つまり特別条項は慢性的な残業を追認する枠ではなく、繁忙月を年6回まで置いてよいという設計上の制約です。工程を組むときは、その年度に繁忙月を何回どこに置くかを先に決め、そこから逆に山積みを均していくと破綻しません。
工期は暦日ではなく稼働日から逆算する
工期の議論が噛み合わない最大の原因は、暦日と稼働日を混ぜて話していることです。365日から週休2日分の104日と祝日16日を引くと245日、年末年始と夏季休暇を10日前後見込めば実働は235日前後、月あたり20日弱になります。ここからさらに天候による不稼働日を引きます。目安を作るときは感覚ではなく、気象庁が公開している現場所在地の平年値で、日降水量1mm以上の日数を月別に確認してください。屋根・外装・塗装・防水・コンクリート打設のように中止判断が出る工種は、その日数の一定割合を不稼働として工程に織り込みます。この作業は一度やれば自社の標準として使い回せ、以降は工期の根拠を数字で説明できるようになります。
受注前に工期の前提を書面化する
工期の無理は着工後には取り返せないので、勝負は契約前です。建設業法では注文者が著しく短い工期で契約を結ぶことが禁じられ、中央建設業審議会の「工期に関する基準」でも、休日、天候不良による不稼働日、施工時間帯の制約を工期に織り込むべきとされています。実務としては、見積書か別紙に工期の前提条件を書くだけでも効きます。想定稼働日数、週休二日か4週6休か、見込んだ不稼働日数、1日の作業時間帯、前提が崩れたときの協議事項という5点で足ります。発注者から短縮を求められたときも「頑張ります」で受けるのではなく、範囲を減らすか、人員と機械を増やして原価を上げるか、工期を延ばすかの三択に整理して返せるようになります。
残業の正体は作業そのものではなく手待ちと段取り替え
実際に残業時間を膨らませているのは、作業そのものより手待ちと段取り替えであることが多いです。前工程が半日ずれたせいで翌朝入った職人が2時間待つ、材料の納品が午後になって施工開始が夕方にずれ込む、同じ日に業者を詰め込みすぎて資材置場と揚重が競合する、といった類のものです。判断基準を持つと改善しやすく、たとえば同一フロアに同時に入れる業者は2社までと決め、3社目が必要になった時点で日をずらすか工区を分けるかを検討します。工程表の上で同じ日に入る業者数を数え、上限を超える日に印を付けるだけでも、着工前に潰せる無駄がかなり見つかります。残業削減は現場の頑張りではなく、机上の並べ替えから始まります。
遅れを2週間以内に見つける週次サイクル
遅れは早く見つかるほど安く直せます。着工後に必要なのは、金曜の夕方に各工程の進捗率を更新し、月曜の朝礼で2週間先までを読み合わせるという固定のリズムです。判断基準もあらかじめ決めておきます。クリティカルパス上の工程が3日遅れたらその週のうちに是正策を検討し、5日を超えたら発注者へ第一報を入れる、といった線引きです。職人の手配は2週間前が現実的な下限なので、2週間より先の工程が動いたら関係者に通知するところまで含めて習慣にします。ここで効くのは、更新する人を1人に決めることです。複数人が思いつきで直すと最新版がどれか分からなくなり、結局は電話で確認する以前の運用に戻ってしまいます。
工程表の道具でどこまで支えられるか
道具の側で支えられる範囲も整理しておきます。コウテイでは先行工程を指定すると依存関係が矢印で描かれ、後続が先行より前に始まる矛盾は赤で警告されるため、1本の遅れがどこまで波及するかを目で追えます。祝日はタイムライン上に自動で色が付くので、連休をまたぐ手配漏れに気づきやすくなります。既存のExcel工程表はCSV/Excel取込でそのまま持ち込め、共有リンクにはパスワードと有効期限を設定できます。チーム向けプランではオーナー・管理者・編集者・閲覧のみの4段階で権限を分けられるため、更新担当を1人に絞りつつ協力会社には閲覧だけを渡す運用が組めます。現場掲示用のA3横印刷は、長期工事なら自動でページ分割されます。
来月から始めるなら、この順番で
一度に全部やろうとすると続かないので、順番を決めます。最初の週は現状把握で、直近3か月の残業時間を職種ごとに集計し、36協定の起算日と特別条項をすでに何回使ったかを確認します。次の週に前述の稼働日カレンダーを作り、自社の標準的な工期の前提を1枚にまとめます。3週目は進行中の1現場だけを対象に工程表を電子化し、週次更新の当番と更新日を決めます。4週目に共有範囲を協力会社まで広げ、朝礼で2週間先を読む運用を試します。全社展開はそのあとで構いません。最初の1現場で更新が続くかどうかを確かめないまま横展開すると、誰も入力しない工程表が増えるだけで、かえって現場の信頼を失います。
コウテイを無料で試す
ブラウザでいますぐ使えます。登録不要でお試し可能。
無料で試す →📰 他の記事

❓ よくある質問
Q. 特別条項を結べば年720時間まで残業させても問題ないのですか。
年720時間はあくまで上限で、月45時間を超えられるのは年6回まで、休日労働を含めて単月100時間未満・複数月平均80時間以内という条件も同時に満たす必要があります。年間合計が720時間以内でも、単月で100時間に達すれば違反です。実務では繁忙月を年6回に収める前提で工程を組み、7回目が見えた時点で工期・人員・範囲のいずれかを見直す運用が現実的です。
Q. 災害復旧の工事も同じ上限が適用されますか。
災害時の復旧・復興事業については、休日労働を含む単月100時間未満と複数月平均80時間以内の規定が適用除外とされています。ただし年720時間の上限と、月45時間を超えられるのは年6回までという制限は適用されるため無制限ではありません。適用除外に当たるかは工事の性質で判断されるので、通常工事と労働時間の集計を分けておくと、後から説明を求められたときに楽になります。
Q. 工程表をクラウド化すれば残業は減りますか。
工程表そのものが残業を減らすわけではありません。減らせるのは、最新版がどれか分からずに生じる確認の電話や、事前の並べ替えで避けられたはずの手待ちです。うまくいっている現場に共通するのは、更新の当番と更新日が決まっていること、2週間先まで読む場が朝礼などに組み込まれていることです。道具はその運用を続けやすくするためのもので、順序としては運用を先に決めるほうが失敗しません。